Vol.300

 

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HSPの自助グループ 悩み相談

〜人間関係や仕事で疲弊〜


「威圧的な態度の人が近くにいるだけで怖い」「ささいなことによく気付いてしまい、疲れる」−。こうしたつらさを幼い頃から抱えている人は、生まれつき、周囲の刺激や人の気持ちに敏感な特性を持っているのかもしれない。病気や障害ではなく、「HSP(ハイリ―・センシティブ・パーソン)*」と呼ばれ、自助グループなどの活動が広がりつつある。
他の人が気付かないことが気になり、誰かに言っても『神経質』と言われてしまう」「あえて気付かないふりをする、という人も多いですね」
6月に横浜市で開かれたお茶会「HSPカフェメリッサ」。7人の参加者が、互いの悩みにうなずき合ったり、自分なりの対処法を語り合ったりしていた。
メリッサは、HSPの悩みを抱える人が集うお茶会として、神奈川県を中心に、定期的に開催されている。
主宰するのは相模原市の秋地葉子さん(63)。自身も「他人の気分に左右される」「すぐにびっくりする」など、HSPのセルフテストに、ほぼ全てチェックが入るという。
秋池さんには、威圧的な態度の人がいると動揺して仕事でミスをしたり、人間関係に疲弊したりして、事務の仕事を辞めた経験がある。「他のHSPの人がどう生き延びているのか知りたい」と、6年前にお茶会の活動を始めた。これまでに約90回開催し、のべ約500人が参加しているという。

*HSP 
感触やにおい、音、味、人の気持ちなど
何に対して特に敏感かは人によって違うが、「深く考える」「刺激を受けやすい」「共感力が高い」「ささいな変化に気付く」という4点が共通する。アメリカの心理学者、エレイン・アローン氏が概念を提唱した。
15〜20%が該当するとの調査もある。
子どもの場合、「HSC(ハイリ―・
センシティブ・チャイルド)」と呼ばれる

4月から参加している神奈川県綾瀬市の女性(35)は、小さい頃から、触感やにおいが苦手な食べ物が多く、人といることにも極度の疲れを感じていた。つらさを訴えると、母親から、「神経質」「わがまま」と言われた。
大学で発達障害について学んでも、自分には当てはまらないと感じた。会社勤めを始めてからも、同僚から「気にしすぎ」と言われ、通勤電車や飲み会にも疲れ果てた。
「なんでこんなに疲れるんだろう」と調べるうちに、HSPのことを知った。メリッサでは「つらいよね。よく頑張ってきたね」と共感してもらえ、「つらいと思ってしまう自分が駄目なんだと、自分の気持ちを抑
えてきたけれど、努力不足の問題ではないんだと思えて楽になった」と話す。
同様の取り組みは、「埼玉HSP支援委員会」(埼玉)、「ジ・オール・マイノリティ」(東京)など、各地で広がりつつある。




 
 

職場の環境確認を

仕事上の悩みを抱える人も多い。自身もHSPというキャリアコンサルタントの美崎珠莉さん(51)は、東京都内を拠点に、HSP専門でキャリア相談を受けている。
相談者は、細かい点が気になって仕事を覚えるのに時間がかかったり、上司からの命令が絶対という雰囲気に苦しんだりし、転職を繰り返してきた人が少なくない。
筋の通っていないことが許せず、「より良い仕事の方法があるのに実行していない」といった状況に、ストレスを強く感じがちだという。
転職の相談では、自分の特性をよく知り、事前に通勤経路や職場の様子など、自分が落ち着ける環境かどうか確認しておくことを勧めている。
  美崎さんは、「100%条件が整う職場はなかなかない。その上司は本当に威圧的なのか、そこまで気配りする必要はあるのかなど、信頼できる人に相談し、客観的に状況を判断するのも有効」とアドバイスする。

生来の気質 うまく活用も

自身や周囲の人が「HSPではないか」と思ったら、どうすれば良いだろうか。関西大学の串崎真志教授(心理学)によると、HSPは生まれ持った気質で、脳の仕組みが関係しているとされるが、病気や障害と違い、基本的に、病院で診断を受けたり、治療したりするものではない。HSPでも、洞察力や共感力など、特性を生かして活躍している人も大勢いる。
  生きづらさを感じている人には、対処法を紹介する様々な書籍がある。自分に合うものを実践したり、近くに自助グループがあれば参加したりするのも手だ。
  ただ、セルフテストで自身がHSPだと思っても、発達障害との違いを見分けるのが難しい場合がある。HSPの特性が一因となって精神疾患を発症している可能性もある。
  串崎教授は「本当は障害や病気なのに、自分の独断でHSPと思い込むことで、適切な支援を受けられないリスクがある」と指摘。日常生活に支障が出ているようなら、精神科や発達障害に詳しい医師を受診した方が良いという。

読売新聞(2019年)