Vol.296

 

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「いろんな人がいる」幼児期からの理解

 

☆障害への理解

 保育所や幼稚園などに障害児の入園が増える一方、保育・幼児教育施設の65.2%で障害を理解させる教育をしていない実態が分かった。「やり方がわからない」「人手が足りない」「必要がない」など消極的な声が目立つ。
  一方、実施した施設に効果や具体的な方法を聞くと「(障害がテーマの)絵本の読み聞かせ」(38.1%)、「障害者とのふれあい」(24.4%)、「紙芝居」(11.9%)、「アイマスクなどの障害体験」(5%)の順で多い。ただ、絵本の読み聞かせをした施設の大半が年に1、2回にとどまる。読み聞かせに使った絵本は、生まれつき右手の指がない障害を受け入れて生きる少女を描いた「さっちゃんのまほうのて」(たばたせいいち著、偕成社)が圧倒的に多かった。
  専門家は「幼児期から障害への理解を深めることで、いろんな人が世の中にいることを知り、子どもたちの価値観が多様化する素地となる」と必要性を話す。
  「幼児期からの障害理解教育は、共生社会をつくるための種まきです」。障害理解が専門の筑波大医学医療系、水野智美准教授(45)は、家庭や保育・幼児教育施設での取り組みの重要性を訴える。
  水野さんによると、幼児期は「違い」に興味を持って理解する年代。目が見えなかたり、手足の一部が欠けていたり、その違いを日常生活や遊びを通して隠さずに教え、障害者が具体的にどんな生活をしているかをイメージさせることが重要だという。さらに、工夫や手助けがあれば自分たち(健常者)と似た生活ができると感じるように促す。「見た目は違っても人としての価値は同じ。いろんな状態の人と一緒に生活することが当たり前と考えるようになる」という。
  例えば人形遊び。車いすに乗った人形を与えただけでは、どう遊んだらいいか分からない。そこで「車いすの人はどうしたら買い物に行けるかな」と問い掛けると、「押してあげたら行けるよ」と答えが出て、皆と同じように外出する生活を想像できる。障害者も自分でできることはたくさんあり、遊びで「障害者はできない人で、お世話される存在」と思い込ませないよう注意が必要だ。
障害者の人形は日本ではなかなか手に入らないのが現状という。

 


☆認知症への理解
 埼玉県の本庄市が2017年度に保育士対象の講座を行ったところ、「子どもたちにも優しい心を持ってもらって高齢者と接してもらいたい」と保育士から要望があり、園児対象の講座に取り組んだ。
  対象は年長児で認知症の理解に役立つ絵本の読み聞かせや寸劇を通して、認知症の人が間違っていても「違う」と言わないことや、怒ったりせずに仲良くすることを学んでいる。市によると、園児に向けた認知症講座は全国的にも珍しいという。
  講師を務めた女性は「認知症という言葉を聞いたことがありますか」と年長児26人に質問し、「頭の中が病気になり忘れる事が多くて名前やちょっと前のことも忘れてしまいます」と説明。「困っている人がいたら優しく話してあげようね」と園児に声を掛けていた。
  認知症サポーター証が配られた園児は「『そうだね』っておばちゃんに言います」「優しくする」「笑顔にすればいい」と話していた。
  市高齢者包括支援係の田畑知香子係長は「たくさんの世代の人に認知症について理解をして頂き、皆さんと一緒に温かく支えて行くことを広めていきたい」と話している。

〜記者が子育てについて思うこと〜

〇実態を見ての“子育て支援”か?

県内企業を取材すると、整理整頓の行き届いた事務所や整然と工具などが並ぶ工場に感心することがある。でも、そこで乳幼児を連れて働けるか、となると話は別だ。鉛筆1本でさえも赤ちゃんにとっては危険物。よほど目が届く環境でない限り、周囲で働く人も仕事に集中できないだろう。
  そんなことを考えたのは先ごろ、赤ちゃんを抱っこしてオフィスで働く女性のニュースを見たからだ。子連れ出勤しやすい社会を目指して国が行った。 視察の話題だった。「困ったらいつでも子どもを連れてきていいよ」と寛容な職場が働きやすいのは間違いないが、多くの企業で取り組めるかといえば非現実的だ。むしろ子連れ出勤しなくても、安心して働ける社会づくりを急ぐべきだと思う。
  10月から幼児教育・保育無償化が実施される予定だ。わが家にも4月から年中になる息子がおり、支出が減るのはありがたい。ただ、待機児童問題が指摘され続ける中、既に園に入れている子の支援よりも保育士の待遇改善など他にやることがあるのではないかと思うと、心から歓迎しにくい。国が子育て支援に力を注ぐ姿勢は伝わってくるが、どこかずれているように感じてしまう。実態に即した対策の進展に期待したい。       「新潟日報報道部」

〇保育園のありがたみ

1947年に、荒川の土手で青空保育からスタートした新田保育園(足立区)は、まだ豊かでない時代、仕事に忙しく、子どもの世話ができない保護者によって自然発生的に誕生したそうです。
  しかし、青空保育では雨の日に困るため、古い都バスの車両を園舎に活用する案が浮上。保護者たちが半年で14回も都交通局に陳情に行き、ようやく許可がでました。
  購入費用や設置場所は、保護者たちの願いを聞きつけた地元の工場や地主が提供してくれました。バスは保護者たちが20日間かけて引っ張ってきて、49年夏にバス園舎が完成しました。
  今は3代目の園舎で、バス園舎はずいぶん昔になくなりましたが、ミステリー作家・柊(ひいらぎ)サナカさん(44)がこうした歴史を小説にしました。柊さんの子どもがこの園に通っており、「保育園はあって当たり前の施設だと思っていたけれど、歴史を知り、ありがたみが増した」と話します。
  柊さんは「多くの人の協力で保育園が形作られた。少しは私も」と著作権を保育園の父母の会に譲りました。小説は園で1冊300円で販売され、売り上げは子どもたちのために使われるそうです。
  取材を通して、保育園と、園に携わっている人たちへの感謝の気持ちが大きくなりました。内企業を取材すると、

「園での先生の関わり方によって子どもの様子がまるで違う」
「園によって、担当する先生によって子どもの育ちが違う現実を目の当たりにした」
保育士の資質の違いである場合も、保育の手法の違いである場合もあると思います。子どもの気持ちが大切にされる保育、自分なりの頑張りを認められるような保育に出会うことで、子どもは励まされ、思い切って自分の力を発揮できるようになります。そのことを、子どもの様子から感じ取っている保護者もいるのです。
「担任の先生たちの、子どもたちへの向き合い方が一生懸命で全力、それが我が子を通じて見たことが、驚きと感動と感謝です。関わった先生方のすごさを実感しました」
こんな保育士出会えた子どもは幸せです。反対に、こんな残念なコメントもありました。
「先生は子どもに言うことを聞かせるために必死なのだと思うが、先生の態度を子どもが真似る(見下す、ダメとラベリングする)など、経験の長い先生がいるから安心、ではないことがわかった。とは言え、3年目と1年目の先生で0歳クラスを見ていた認証保育所では、命に関しての安心感(質)は高いが、子どもが過ごす時間が長いため、人格形成に影響があり、保育園の質として求めたいものが増えた」
人格形成期の1年間でどんな保育を受けるかは子どもにとって大きなことです。これは、子どもの人権にかかわることです。園は、保育の理念を職員全員で共有し、どのような保育が子どもにとって望ましく、その発達を健やかに支えるのか、十分に話し合ってほしいと改めて思いました。         「読売新聞編集室」