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結婚しない若者たちの事情
―人生リスクの回避選択なのか―

ようちえん情報センター代表 Webマガジン『月刊・私立幼稚園』主筆 片岡 進

保育目標:布施奉仕

 2023年の出生数は75万8,631人(対前年比5%減)。婚姻件数は48万9,281組(同6%減)。どちらも減少幅は過去最大に広がりました。国勢調査を元にした国立人口問題研究所の推計は出生数が75万人台になるのは2035年でしたので、スピードを12年も早めてしまったのです。
 ただ同研究所は「これはコロナ禍の影響を引きずっているためで、影響が完全に消える2024年以降は出生数は増加に転ずる」と言っています。その言葉に一縷(いちる)の望みを託すだけですが、異次元の少子化対策がいかに効果を発揮しようとも、この流れを反転させることは出来ないだろうと言わざるを得ません。
 その同研究所が2021年に行った「結婚と出産に関する全国調査」によると、18~24歳の未婚男女で「一生結婚するつもりはない」と回答した人が、男性17.3%、女性14.6%になったとのことです。結婚の機会を得ないまま30代、40代になった人の言葉ではありません。かつて肩身の狭かった“生涯独身”の生き方が、今や大手を振って歩いているのです。
 「でもまだ8割強の若者が結婚の選択肢を残している」と思うかも知れませんが、ロート製薬の「妊活白書2023」によると、18~29歳の未婚者で「将来、子どもはほしくない」が55.2%(男性59%、女性51%)となっています。BIGLOBEの「Z世代の意識調査」でも「結婚は考えているけど出産・育児はムリ」と答えた女性が5割を超えています。結果、女性の理想ライフコースは「働いてコツコツお金を貯め、老後に備えてマンションを買う」という“非婚就業”が34%で1位になり、「仕事と子育てを両立させる」という2位の“結婚就業(28%)”を引き離しました。
 結婚した夫婦の3分の1が離婚する現状もあって、男性も女性も「家族を持 つことはリスクが大きい。それを背負っていく度胸も力も自分にはない」と思う胸の内が見えてきます。リスク回避を優先させる若者の心理が結婚観、家族観に現れているようです。
こうした状況を打ち破り、身の周りから少しでも結婚する若者を増やしていく にはどうしたらいいかと、2023年11月、私は孫たちが世話になったいる幼稚園の小ホールを借り、「結婚しない若者について」のタウンミーティングを開催しました。集まってくれたのは在園児の祖父母です。その中には婚活が実らない息子、娘を持つ人、諦めていた40代の息子が友達の勧めで急に結婚した事例など生々しい話がいくつも出てきました。もちろん政府の少子化対策がいかにピンボケで、若者の気持ちとスレ違っているかについても厳しい指摘がたくさん出ました。
 そして結論は「昔は町内や親せきに、釣書(適齢者のプロフィール)の束を抱えて走り回るお節介屋がいた。この人たちが消えたのが少子化の一因だ。これを復活させよう。自分たちが率先してお節介屋になり、死ぬまでに3組をまとめようじゃないか」という実に具体的な内容になりました。
 結婚しない若者の多くが口にするのは「いい人との出会いがない」です。それは昔の若者も同じだったと思います。そこを強引に出会いを作り、結婚まで導いていくのがお節介屋です。本人にあまり結婚する気がなくても、渋々お見合いを重ねるうち、その気になっていくことはよくあります。ましてやベテランのお節介屋が「あなたにピッタリだと思う」の言葉はそう外れるものではありません。親が我が子に結婚をせっつくのはパワハラだと言われますが、友人や親戚の人はパワハラにはならないと思います。どうです、あなたもお節介屋になりませんか。

保育目標:布施奉仕
宝の持ち腐れ

 社会のデジタル化が進むなかで、アナログ時代にあったものが次々と姿を消していく。例えば公衆電話。街角から姿を消していることもあり、子どもたちは使い方を知らない。受話器をとってから硬貨を入れ、ダイヤルするという手順を知らない子どもが増えている。先に受話器を取らないと、硬貨を何回入れても戻 ってくる。いつまで経っても使えない。さらに相手先の電話番号をダイヤルするのだが、覚えているだろうか。スマホでは直接電話番号をダイヤルすることは少ない。登録されているからだ。昔は、家や仕事場、友人知人の何か所かの電話番号を記憶していた。記憶することも不要になる。便利になるということは、今ま で使っていた能力を使わなくてすむこと。良いことなのか悪いことなのかわからない。
 知育学習雑誌『幼稚園』4・5月号(小学館)には、高さ30㎝の本物そっくりの公衆電話が付録についている。紙工作で作るおもちゃ。硬貨だけでなく、テレカ(テレホンカード)も使える。いざという時に公衆電話が使えるようにする練習の意味があるそうだ。公衆電話は“レトロ”な機械=過去の遺物になってしまった。テレカを持っている人はもう少ないだろう。知らない人もいるかもしれない。
 デジタル化が進む中で、今まで人が担ってきた仕事が不要になる。暗算できなくてもスマホの計算機能を使えば良い、暗記しなくてもスマホにデータが収められている、わからないことは辞書をひかなくてもスマホ(インターネット)で調べれば良いというように、自分の力を使って計算したり調べたりする必要はない。自分の“脳”を使わなくなるので、知らないうちに“脳”が退化していくのではないかと心配になる。
 先日、老舗の料理店で会計した時の話。会計責任者はベテランの人で、指で伝票を上から下へなぞりながら、十の桁、百の桁、千の桁と順番に足していた。電卓を叩くより早い。人間のあたたかみを感じた。人間の力をあなどってはいけない。人間の力を信じて、使わなくなった“脳”の有効利用を心がけ、併せて退化しなように“脳”を使うことはいとわないことが必要だろう。