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遊びこそ最良の処方せん

冒険遊び場かぐや姫プレイパーク 代表 竹森 康彦

たけもり やすひこ■プロフィール 四国学院大学・吉備国際大学講師。昭和四十八年「わらべの里」主宰。平成三年「かがわ子どもの生活研究所」を設立、幼児から高齢者までを対象に生涯教育的立場で研究、指導、評論等の活動を行っている。平成五年「かがわあそびの学校」の代表となる。香川県登校拒否親の会指導者、日本レクリエーション協会公認指導者としても活躍。「手作り伝承あそび「みんな集まれ」」「在宅ケア」(共著)「小さな窓から」(コラム集)等の著書がある。   かぐや姫プレイパーク仲多度郡まんのう町佐文℡090-6889-0312

 結(むす)ぶ。ほどく。巻(ま)く。拭(ふ)く。絞(しぼ)る。弾(はじ)く。止める。削る。ひねる。まわす。投(な)げる。握(にぎ)る。開(あ)ける。閉(と)じる。これらの動作は、子どもたちが日常生活のなかで、ごく自然に、ごく普通に習得しながら手の働きを高めてきたものでした。

 しかし今では、それらの動作のほとんどが不器用になってきているのです。もう、子どもたちの手は蝕(むしば)まれてきている(「蝕(むしば)む」は、虫歯のように、小さな動きで少しずつ長い時間をかけて、気づかないうちに奥の方まで食い込み傷つけること)といったほうがいいのかも知れません。

 一見何でもないように見える指や手の働きが、実は知能、運動能力など脳の発達と密接な関係にあり、社会的成熟度などとも連携していることなどから考えると、ただ単に、手だけが不器用だということではなく、からだの異常は予想以上に進行しているのです。

 例えば、朝礼でバタン、背中はぐにゃぐにゃ、皮膚はカサカサ、神経性胃潰瘍、肩こりなどの老化や骨折、腰痛、その上に低体温化、糖尿病、腹痛、租(そ)しゃく力の弱さなどに加えて、授業のアクビ、ボーッとしている、ウロウロして落ち着きがないなど、心にかかわる「精神の植物化」ともいえる現象が広がっていることが報告されているのです。蝕(むしば)まれているのは手だけではなく、からだ全体にまで侵入されてきているとすれば、まさに人間的な危険状態が始まっているといっても過言ではないのです。

  このような子どもたちのからだの状態は、遊びほうけながら育ったかつての子どもたちにはほとんど見られなかったもので、遊びで培(つちか)ったからだが、忍び寄る病原菌を寄せつけなかったのではないかと思われます。これは子ども時代における遊びの重要性を示唆しており、遊びこそ最良の処方せんとの信念を抱きつづけながら、子どもたちとのかかわりはもう六十数年になりました。その間、子どもを取り巻く環境も、子どものからだの状態も悪化の一途を辿(たど)ってきております。にもかかわらず、これらの環境をつくり、育ちにかかわってきた親や教師、地域の大人たちは、今なお性懲(しょうこり)もなく子どもたちを追いかけまわし育ちの芽を摘んでいるのです。もう、いいかげんに子どもたちの現状を凝視し、反省し、これからどうかかわるべきかを問い直さなければとりかえしのつかないことになるのではとの思いを抱きながら活動を続けています。 (令和6年4月)

集団行動の中に協調と創造性が

~自然の中の子供たち~   
アジサイの花が咲きほこっている。この花がしぼみだすと、わらべの里の“タルの家”に夏がやってくる。四季おりおりの果樹園とうっそうとした山々。 そして、瀬戸内海が一望できるわらべの里。まさに、本物の自然がいっぱい。そこに子供たちの歌声が響き渡るのももう間近である。  ここに集う子供たちが規則を守り、責任を分かち合い、よき指導者、よき友達、そして家族との交わりを通して創り出す“協同と創造”にみちた楽しい生活こそ、輝ける未来への道ではないだろうかと考える毎日である。

 すでに何万人に子供たちが、わらべの里での生活を体験したことであろうか。  見知らぬ者も嫌いな者も、グループになれば役割を定め、助け合うことを知る。助け合うということこそ、生きることの第一歩であることを体験するからであろう。ぎこちない助け合いから、子供たちは肩を触れ合う楽しさ喜びを感じ取り、自然の厳しさ美しさの中で感動し、さまざまな行動を通じて創造性を養っていく。

  まさに、細胞のひとつひとつが飛んだり、はねたり活発に働いているように思えてならない。 父と子の働きも、また同じである。自然の中で言葉はいらない。ただ黙々とかまどを造り、米をとぎ、たき木を集めて食事をつくる。ジャガイモの皮をむき、タマネギとニンジンを刻む。沸騰する鍋にそれを入れカレーをつくる。子供は父親の働きを真似し、そして学びとっていく。何もかも初体験である。焦げくさい飯ごうのごはんに水気の多いカレーをかけての食事が始まる。指を傷つければツバでもんだヨモギをいぶして傷口にあてる。暗天にきらめく星に胸をときめかし、かわいいホタルの光に目を輝かす。清流で身体を洗い夢路をたどる。父と子の心は、無言のうちに通じあっていく。 大自然は、人の心を自然に開かせてくれる。父と子、そして子供同士も構えることなく、あせることなく自然な姿でかかわることができる。たくましい子供は、本物の自然の中から生まれるといってもいいだろう。

野外教育センター「わらべの里 活動の記録」より

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