Vol.339

 

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や・き・め・し は心がけたい頭文字

あきた小児科クリニック 秋田裕司

夫婦の仲がぎくしゃくする原因の一つに、相手に対して100%のことを期待するからだと言われます。相手の良さも悪さも長所も短所も、お互い様と受け入れることで居心地の良い関係につながっていくようです。夫婦関係は平等に考えやすいのですが、これが親子となると、どうしても親の立場が強く出てしまいます。親の希望や理想、主張などを子どもに押し付けたり、完璧さを求めたりしがちです。その結果、一方通行の親子関係に陥ってしまったりします。
風通しの良い親子のコミュニケーションを育んでいくためには、信頼関係の構築とともに、一方通行ではない人間関係が望まれます。そのためには、『約束を守る(子どもとの)』『禁止的な言葉は控えめにする』『命令的、抑圧的な関わり方も控えめに』『叱ってばかりではなくほめる』といったポイントがあげられると思います。「それぞれの頭文字をとって『や・き・め・し』ですよ」とお話しすることもあります。子どもにとっての親は、世の中の誰よりも一番安心できて、いざという時にも信頼できる“港”や“防波堤”であることが望ましく、そうした環境でこそ子どもは存分に成長して船出していけるものです。
その反対に、『約束を守ってくれない』『禁止的な言葉が多い(ダメとかやめなさいとか)』『命令的、抑圧的な接し方ばかり』『叱ってばかりでほめてくれない』…もし自分がこんな関わり方をされたら、と考えてみてください。「どうせうちの親に言ってもわかってくれない」「どうせまともに話し合ってくれない」「どうせ自分は期待されてないし…」ついついそう考えてしまっても不思議ではありません。過干渉や抑圧的育児では一方的なコミュニケーションになってしまい、親子の間に高い壁を造るだけです。とくに思春期に入っているお子さんはその傾向が強く出ることがあります。

 や:約束を守る
 き:禁止的な言葉は控えめに
 め:命令的、抑圧的な接し方も控えめに
といった『や・き・め・し対応』をちょっとやってみましよう。小学生や中学生からでもけっして遅くはないと思います。親が変われば子どもが変わる、親の接し方が変われば子どもの態度が変わる…ことを信じて、ちょっと続けてみませんか?

 秋田裕司(あきたひろし) 徳島県出身 高松和貴こども園医師
  昭和59年 徳島大学医学部卒業
  平成元年  徳島大学医学部付属病院小児科 医員
  平成16年 高松市赤十字病院小児科 第一小児科部長
  平成19年 あきた小児科クリニック 開院
  専門分野: 小児科全般。とくに小児循環器疾患(先天性疾患、不整脈、川崎
       病など)小児アレルギー疾患、小児心身症など
  著書:「心臓病児者の幸せのために」「ボクのハートは優れもの」
「子育てかるた〜育児の悩みが軽くなるヒント集〜」



楽な道 ホントはとても 回り道

  たとえばジャングルやサバンナで親からずっとエサをもらっている動物の子どもがいたとします。もし親が急にいなくなったら、その子どもはどうなるでしょうか。たちまち食べるものに困ってしまって、命にも関わる事態になりかねません。
反対に、ある段階からエサの捕り方を教えられていた動物の子どもは生き延びられる可能性も高いでしょう。子どものためにエサを与えるだけでなく、なかなかうまくいかなくても、苦労しながらでも、捕り方を教えた方が子どものためになります。もちろんヒトでまったく同じことが言えるというわけではなく、ジャングルやサバンナと現代社会には大きな隔たりがあります。しかし、今の時代はいろいろな情報やSNSなど、ITを中心としたジャングルの中にいるようなものです。ある程度の年齢までに、自分で適切に考えたり行動したりする基本が身に付いていないと、思いもよらないことに巻き込まれる危険性もあります。
子どもが困らないように先回りしてやっておいてあげる…、子どもが自分で話さないといけないことも代わって言ってあげる…、子どもが自分でやろうとしているのに我慢できずに手を出してしまう…、親として良かれと思ってやっていることが、かえって子どもの自然な成長を妨げたり遅らせたりする場合もあります。突き放してしまったり、放ったらかしにしてしまうのはよくありませんが、自律や自立を手助けするような関わり方が本当は望ましいと思います。もちろん、それぞれの年齢や個性に応じて臨機応変に対応するのは当然のことです。日常生活の中で「挨拶しなさい」「やりなさい」「片付けなさい」と言ってできたとしても、できるのはその時だけです。一種の条件反射のように単に大人の言葉に反応しているだけであり、自ら学習して挨拶ができるようになったとか片付けができるようになったわけではありません。こうした時には命令文ではなく疑問文で子どもに問い掛けた方が効果的であり、成長につながっていくと言われています。「こんな時はどう言ったらいいのかな?」「散らかっているけどどうしたらいいのかな?」といったように少しでも子どもが自分で考えたり判断したりする機会を与えた方がいいと思います。
できないからやってあげる、困っているから助けてあげる、言わないから言ってあげるというだけではなく、どうすればできるようになるのか、どうしたら困らないですむのか、そうしたことを一緒に考えながら乗り越えていくことが望ましいでしよう。『楽な道 ホントはとても 回り道』なことが多く、『楽をせず 頑張ることが 近い道』だと思います。

「子育てかるた〜育児の悩みが軽くなるヒント集〜」より