Vol.298

 

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「イヤイヤ!」は自我の芽生え

大人が何を言っても「イヤ!」、自分でやりたがって泣き叫ぶ…。1歳半から3歳ごろの「イヤイヤ期」。手を焼く親も多いが、専門家は「自我の芽生え」として前向きにとらえようと呼び掛ける。上手に付き合う方法を聞いた。。

「大人のやることをまねしてみたい気持ちが強まるのが、この時期」。長年、保育の現場で子どもと向き合ってきた臨床心理士の植松紀子さん(75)は言う。
植松さんによると1歳半から3歳までに体は急速に発達。跳んだり走ったりといった基本的な運動能力が身に付くことから、行動範囲も広がる。
  「イヤイヤ期は、自立へ向け、赤ちゃんから成長している証し」。この時期の子どもが自分でやりたがるのが、服を着替える、食事の時に箸を使う、階段を上る、鉛筆やはさみを使うなど。うまくできなかったり、大人が手伝おうとしたりすると怒りだす。朝など急いでいると、親はついイライラしてしまう。
  「子どもは失敗しながら学ぶ。『危ない』と禁じるのではなく、やりたいという気持ちを大切にして」と植松さん。はさみなどけがをする恐れがある場合は、そばで見守りながら使わせるといい。何度か自分でやってできなければ納得して手放すことも多いという。
  一方、かんしゃくを起こして泣き叫んでしまったら何を行っても効果はない。迷惑にならない場所に移動するか気が済んで泣きやむまで待つしかない。
「『次の予定があるんだから早く泣きやんで』などと思うと腹が立つ。臨機応変に予定を変え、子どもの気持ちに付き合ってほしい」
  何がかんしゃくのきっかけになるか分からない中、子どもとの間で約束を交わすことは、親ができる工夫の一つだ。例えば電車に乗る前、「電車の中では騒がないようにしようね」と約束をする。もし子どもが大声を出したら、「約束したよね」と注意、収まらないなら下車してもいい。反対に、約束を守れたら「できたね。ありがとう」ときちんと褒める。この繰り返しが子どもを育てる。
  本気で叱らないといけない場面も、もちろんある。道路に飛び出すといった命に関わること、人にけがをさせるなど、絶対にやってはいけない行動を取った時だ。植松さんは「その場ですぐ、『だめ』と強く言ってやめさせる。目を見てしっかり叱れば伝わります」。
  大事なのは叱る時のルールを、祖父母ら普段から子どもと接する機会のあ
る家族の間で徹底しておくこと。同じことをやっても、人によって叱られたり叱られなかったりすると、子どもは混乱してしまう。「イヤイヤ期は、長くても1年半」と植松さん。「大人への第一歩、『イヤイヤ期、来てくれてありがとう』くらいの余裕を持って接してほしい」

SNSで分かち合う
  SNSを使い、イヤイヤ期のつらさを全国のパパやママと分かち合おうという試みも。例えば、インスタグラムで「#イヤイヤ期」などと打ち込むと、イヤイヤ期真っ盛りの子どもの写真がたくさん出てくる。
  育児雑誌を出版する主婦の友社は2016・2017と「イヤイヤ期ラブラブコンテスト」を開催。インスタグラムとツイッターで、子どもの写真や動画を募集したところ、各回とも200件を超える応募があった。
  地面にひっくり返って大泣きする写真に腕を振り上げて何かを訴える写真…思わず笑ってしまう迫力に「大変なのは自分だけじゃない」「励まされる」などの反響があった。同社の担当者は「客観視することで冷静になれる」と話した。


『中日新聞』(2019年6月)。



一人でできる子になるテキトー子育て           ハッピーエデュ代表 はせがわ わか              

 近著「一人でできる子になるテキトー子育て」では、知能や感情の発達に応じた子どもとの関わり方のヒントを紹介している。例えば、しつけをめぐる対応。1歳半まではやっていいことと悪いことの区別がつかないため、叱られるのは子どもにとって苦でしかない。周囲の迷惑を避けて、静かなレストランには連れて行かないなど、叱らずに済む環境を意識的に整える方が重要という。
  他人の気持ちが分かってくる3〜4歳になったら、「おもちゃを横取りしたら、友達は悲しむよ」などとしっかり言葉で教える。ごっこ遊びをどんどんさせることも、決まりを守る練習という点で有効。
  4歳以降は友達との関係性の中で学んでいく。けんかして泣いて帰ってきたら抱きしめるなどして、愛情は伝えつつも、行動や判断にできるだけ口を出さないよう見守ることが大切だ。
  また、3〜4歳頃からは、身の回りの事柄について「なぜ」と尋ねることが増えてくるが、親ですら知らないことの答えを無理に探して教える必要はないという。
  例えば、幼い子どもに「空が青い理由」を調べて伝えても、理解の範囲を超えているのに加え、将来自分で「なぜ」の答えを見つける喜びを奪いかねないからだ。「それはそういうものだから」と答えたり、空想話を交えて教えたりして、「事実で答えようとしない方が良い」と話す。 
  はせがわさん自身も小学6年の息子の子育てに悩んだ時期があったという。小さい時は「誰よりもちゃんと育てないといけない」と高い理想を掲げ、現実とのギャップにいら立ちや悩みを抱えていたと明かす。
  しかし、発達心理学を学び「こだわらなくてもいいことにはこだわらなくても良い」という「テキトー」さが負担を取り除き、子の伸び伸びとした成長につながることを実感したという。
  「ストイックに子育てに取り組んでいる真面目な親ほど、不安から強く当たったり、空回りしたりしてしまう。無理に矯正せず、『適当』をうまく取り入れながら、子どもがもともと持っているものを丁寧に育ててあげること
が一番大事です」

☆「一人でできる子になるテキトー子育て」(SBクリエイティブ)\1620